New Face of Japanは、多様でインクルーシブな日本社会の発展を目指して活動しています。多様なルーツを持つ方々にインタビューを行い、その声をイラストやインタビュー記事を通して発信しています。
Project Director: Richa Ohri (千葉大学)
Project Manager: Ryota Takahashi, Nanami Goto
前回(Part1)に引き続き、今回のインタビュイーは、日本とアメリカのミックスで、TwitterやInstagramで女性蔑視や人種差別に対して批判を投げかけ続けているあんなさん。このインタビューでは、彼女が今までたどってきたルーツ、そして今の世の中に思うことを語っていただきました。
インタビュアー:ななみ、あおい
ミックスルーツの人に向けられる偏見や期待/国籍選択や参政権で感じる排除
ななみ: 期待される部分についてもう少しお聞きしたいのですが、ミックスルーツであることによって
期待されているなと思うことは、見た目のこと以外にもありますか?女性であることは関係あってもなくても良いです。
あんなさん: 「英語ができて当たり前だ」という感じは受けます。私は海外経験があってたまたま英語がで
きるので、すごく複雑なんですが、私ができることによってそのステレオタイプを助長しちゃってるんじゃないかなと感じることはあります。なので、「英語できるんでしょ」と言われた時には、必ず「アメリカに住んでたからできるよ」という一言を加えるようにしてたりします。
あとは、「グローバルな意見を聞かせてほしい」と言われることがあります。それってよく言われる「女性としての意見を聞かせてください」と同じで。イギリスに留学してたりアメリカで育ったりという自分の経験は否定しないけれども、私の意見は私の物でしかなくて、「グローバルな意見」って何?っていうところですよね。「あんなさんの経験に基づいて、あんなさんの意見を聞かせてください」ではなく、「グローバルな意見を求めてるんです」というふうに言われるのは、うーん...と思います。逆に言うと、私が個人の意見を表明しているのにも関わらず、私の言うことやることが必ずしも相手の価値観や一般的な感覚に即していない場合に、「ああやっぱり海外の人だから」「やっぱりミックスだから」「やっぱりアメリカに住んでたから、そういうこと思ったり言ったりやったりするんだよ」と言われるんですね。私個人の意見がいつの間にかグローバルなものになっていて... 私は地球を代表した覚えはないんだけどなっていうのはいつも思いますね。
ななみ: 何を言っても海外と結びつけられがちということなんですね。
あんなさん: そうですね、ジェンダーの問題でアカウントを作った時に、最初は自分がミックスルーツであ
ることを隠していたと言ったんですけど(※インタビューPart1の自己紹介を参照)、それは何故かというと、絶対にそうやって「おまえは海外に住んでたからそういう風に思うんだよ」と言われる未来が見えていたからなんです。「一(いち)日本人女性としてこう思う」というスタンスをとっていたのは、最初の方はわざとでした。プライベートで今まであった経験として、「こういう政治家の発言はおかしいよね」「こういう制度って女性に対して差別的だよね」みたいなことを言うと、「あんなちゃんアメリカに住んでたからそう思うんだよ、日本はそうじゃないんだよ」などと言われることが多々ありました。その経験もあって、アカウントを作った時に自分のルーツについては言及しませんでした。
あおい: 共感できる部分が多いです。何か物事をはっきり言ったりすると、「あおいはアメリカ人の何
かがあるんだね」とよくわからないことを言われたりした経験があります。アメリカに住んでいたからとか、アメリカの文化を受け継いでるからじゃないのに…私がアメリカに住んでいることを知っている人だと結構そういう発言が多いです。いやいや別にそういうのじゃないけど、と笑って流したりしていましたが、最初の頃は「あれ?」と思っていました。
あんなさん: めっちゃ分かります!アメリカでも私の意見と違う人めっちゃいるし、と思う(笑) 「それって
すごいアメリカンだよね」と言われた時に、あなたアメリカの何を知ってるんですか?って毎回思ったり。アメリカに住んだことも行ったこともない人に「アメリカンだね」って言われた時に「何が?」っていう(笑) あなたアメリカの何がわかるの?っていつも思うんですけど、なかなか言い出すのも難しいですよね。
あおい: そういうことを言う人達は、自分のアメリカのイメージに合うことを目の前にいる私やあんな
さんがすると、ああ一致すると思ってしまうんだろうなと。
ななみ: 「海外」という材料やフィルターみたいなものがあると、なんとなく分かりやすくなっちゃ
う、簡単になってしまうというのがあるんでしょうかね。
あんなさん: そうなのかもしれないですね。「個人の意見」なんだと、ちゃんとフィルターなく見れる社会
になってくれたらいいなと思いますね。
▶日本社会で排除されたと思う経験
ななみ: 日本社会で生活していて排除されたと思う経験は何かありましたか?日常生活でも、社会の制
度でも何でも良いです。
あんなさん: 細かいもので言ったら、ただ市役所に住所を変えに行っただけなのに「在留カードあります
か」といきなり言われたり。それから、週刊誌の報道等で恋愛沙汰が取り上げられた時に、「ハーフ美女と一夜を」とかなんとかいちいち書いてあると「ああ…」と思ったりします。
制度的な面でいえば、二重国籍と国籍選択の部分です。多様化する社会において多重国籍保持者は今後増えていくにも関わらず、曖昧なスタンスを取り続けている日本の行政に対して不満は持っていますね。先日大学院で書いた論文も二重国籍制度についてだったりと学術的な興味もあります。読めば読むほど、インクルードするためではなく排除するための制度なんだと改めて感じることが多いです。
公立の小中学校での日本語教育に関して言うと、アメリカではESL(英語を母語としない子供達のための英語の授業)が普通の公立学校にもあるんですが、日本にはそういうものがない。私の場合はたまたま日本語が喋れて、ある程度日本での文化的生活があるんですが、日本の学校に通う人間は全員日本語が喋れるという前提なんだなと思います。
マクリーン事件(1970年)では、外国人であるアメリカ人女性(ミックスルーツではないですが)がベトナム戦争反対デモに参加したことで、行政にビザの申請を拒否された。このことからも、外国人が政治的意見を言うことはダメで、それはつまり「住まわせてもらっている」みたいな感覚なんだなと。
それから地方参政権ですね。私のパートナーは在日コリアンで、生まれも育ちもずっと日本で、日本語を喋り、日本にしか住んだことがありません。そんな彼には参政権がない。彼は在日コリアンで、日本国籍がないからです。
本当に狭い定義の「日本人」というものに当てはまらなければ、全て無きものにされる。
参政権や自分達に都合の悪い二重国籍を与えないこと、またはそれを制度的に難しくするというところに、行政的な排除みたいなものは感じますね。
ななみ: 意図的にできないようにしようとしてるな、というのは本当に感じますね。
あんなさん: 地方参政権は何回も裁判になっていて、失礼な方々がそこへ「そんなに文句があるなら何かア
クションを起こせばいいじゃないか」のようなことを特権的立場から言うんですが…その人達に見えていないだけで実際は色んなアクションが取られているのに、それがその都度倒されていく、というのが実際起こっていることなのではと思います。
ななみ: ちょっと話がずれるんですけど、ルーツのことに限らず、「こういうところが嫌」と社会に対
する不満を示すと、「じゃあ、あなたが政治家になったらいいじゃない」等と言われませんか。
あんなさん: あります。
ななみ: 私はすごくそれはいやだなと思うんですけど…
あんなさん: 私もそうです。政治家になるだけがアクションではないし、世の中にはアクションが取れない
人だっているわけです。貧困で朝から晩まで働いてる人達が、どうやってアクションとるの?と。さらにミックスルーツだと、ちょっと何かを言うと、「そんなに日本が嫌なら日本から出て行け」「アメリカに帰れ」「反日」とか言われますね。
ななみ: 胸が痛みます。
あんなさん: 本当に嫌いだったら意見なんか言わないけどな、と思いながら(笑)
ななみ: 変わってほしいという思いや希望があるから言っているのに。
あんなさん: どうでもよかったら、そんな面倒くさいことしないですからね。
(Part3へ続く)
インタビューPart2を終えて
(インタビュアー ななみ)
印象に残ったのは、私たちと社会制度の距離感についてです。あんなさんが挙げているような法律が外国にルーツを持つ人々を排除していることは問題ですが、それ以上に、人々がそれを知らなすぎるのが問題だと思いました。事実、私も全ては知らなかったことを反省したのです。これを見過ごしてしまっている人々の態度が変わらないことには、世の中の動きは見込めないと思いました。
▶ミックスルーツの女性が経験する苦悩
ななみ: 海外にルーツを持っている女性または男性であることで、日本において周りからの反応や捉え
られ方が他と違うと感じることはありますか?
あんなさん: 私の主観的な考えでは、自分が女性なのである程度のバイアスはあると思うんですけど、一般
的にいわゆる「ハーフ」というグループに対して、ルックスという偏見はすごく大きなものだと思うんですね。モデルや、メディアに出ている方が多いこともあります。それに加えて、「女性」という存在は、男性よりルックスが強く求められ、外見的に魅力的でなければならないという社会的な圧力がある。全然その必要はないんですけど、例えばお化粧する人の数は圧倒的に女性が多かったり、服にかける消費額が女性の方が多かったり、統計からも個人的な経験からもそうは思います。「ミックスルーツ」と「女性」の二つが重なった時に、「当たり前に美しい」「美しくあることが前提」とされるようなことはあって、それはミックスルーツの女性特有の経験なんじゃないかなと思います。一般的な日本人女性が感じるルックスへの圧力が、さらにニッチに濃くなった感じといいますか。
さらには、その「美しさ」もすごく限定されたイメージを持たれている。例えばアフリカ系のミックスの方がいたとして、その方はその方で全然美しいのに、日本の社会が持つ「ハーフ」の美的な価値観に合わないルックスだと、その方はそこから弾かれてしまう。それはすごく特殊なんじゃないかなと思います。
そしてセクハラもありますよね。外国人の女性は性に奔放だという間違った前提があって、それに基づいて性的な経験を質問されたり、そういったことを言われたり聞かれたりする。もちろん一般的な日本人の方も経験されていると思うんですけど、より何層にもインターセクショナル* に差別的な質問がされる。そんなにすごく言われたことはないですけど、より悪質なものだと、「日本の男とアメリカの男どっちが好き?」とか、「外国に住んでいた経験があるまたは外国の血が入ってるから性的な質問にも喜んで答える」じゃないですけど、まさか「やめてください」と言うとは思われないとか…それがミックスルーツの女性の独特な苦悩なんじゃないかなと思います。
* インターセクショナル... インターセクショナリティーの(関する)
インターセクショナリティー(交差性)とは、人種、エスニシティ、ネイション、ジェンダー、階級、セクシュアリティなど、さまざまな差別の軸が組み合わさり、相互に作用することで独特の抑圧が生じている状況をさす。(出典:HURIGHTS大阪)
私は弟(同じくミックスルーツ)がいるんですが、第三者として見ていて、ミックスルーツ特有の苦悩は持っていても、インターセクショナルに「ミックスルーツの男性」だから何かあるかと言うと、そこまで無いんじゃないかなとは感じます。ただ私より11歳も下ですから、世代が違うのもありますけど。