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#22

『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ(著)斎藤真理子(訳)筑摩書房

尹惠彦

 これは、2016年に韓国で出版した小説です。映画や日本語の翻訳の本もあります。

 わたしは、2年前に本のタイトルに書いてある「82年生まれ」というところに目が留まり、この小説(韓国版)を読み始めました。「キムジヨン」の「キム」は、韓国で最も一般的で多い「名字」であり、「ジヨン」は、1970年代後半から1980年代初期に生まれた女の子に最も多く名づけた名前であります。名前の特徴から見ると、「一般的な人物」ということが窺えます。

 主人公である「キムジヨン」は、どこにでもいそうなありふれた名前を持つ女性であり、学生時代、就職、結婚、出産に至るまで様々な女性差別に苦しみながらも必死に生きていました。しかし、ある日、知らない男性から侮辱されたことをきっかけに、精神科病院に通い始め、人生のことを語ることになります。この小説は、「キムジヨン」の女性としての人生の苦しみの記憶に基づいた語りと、「キムジヨン」が病院で話した彼女の人生の語りを聞き取って記したカルテという二つの輪で書かれている小説です。

 この小説は、韓国で「わたしもキムジヨンだ」という自己(読者)と主人公のキムジヨンが重なり、共感している人が多く、ベストセラーになっています。

 しかし、「キムジヨン」が知らない男性に卑屈な「ことば」を言われなかったり、「女性だから」という「ことば」を言われなかったりしたら、どのような人生を送ったのでしょうか。

 わたしは、半生、日本で暮らしています。わたしは、日本では、「外国人・韓国人」です。日本で暮らしている多くの外国人は、「外国人・○○人」と呼ばれていること、そのことばが持つパワーや様々な暗黙の意味を共感するでしょう。

 大学院の進学後、わたしにとっての「外国人・韓国人」の「ことば」の意味が変わりました。進学前は、社会(他者を含む)から呼ばれている「ラベル」のようなものでした。わたしには、その「ラベル」を変えることは出来ません。しかし、進学後、「ラベル」の色は、自分で選べることが出来ると気づくようになりました。つまり、「ラベル」が「個性」に変わったのです。いま、わたしにとっての「ラベル」の色は、レインボーです。レインボーの色のように変わったのは、きっと「ことば」について考える場や仲間のおかげだと思います。

 数多く実在するだろう「キムジヨン」や「外国人、○○人」に、わたしたち、わたしができることは、自分の「ことば」を、他人の「ことば」を、社会の「ことば」を再認識することだと、この本を通して思うようになりました。「ことば」を再認識することにより、少なからず、思考や認識に影響を与え、社会の色が変わるかもしれません。そして、わたしは、「キムジヨン」のような存在が社会から消えていくことを切に願うばかりです。​

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