第6回
周りを見て調整役にまわれる大人
お客様:介護士のゆみさん
ひゅーーーーびゅーーびゅーーーがたがた。
少し古びたスナックの茶色いドアがガタガタ音を立てている。
あきら:うわ~外は寒そう。。。
隙間から風入ってきちゃってるし、そろそろ新しいドアにでもしようかな。。。
がちゃっ!!
??:ママ!!熱燗ひとつ!!
あきら:えっ!?あ~ゆみさんか。びっくりしたよ。
ゆみ:ごめんなさいね(笑)
自転車でそこまで来たから寒くて、寒くて(笑)
あきら:はい!おしぼりです!
ゆみ:ありがとう!!ふわぁぁああ。これよね。
冬の温かいおしぼりに勝る幸せってないと思うの、私。
あきら:え、そうなんですか??(笑)
ゆみ:そうよそうよ。ママはいっつもお客さんに渡す側だからわからないのかも??(笑)
冷たい外気でかちこちに固まった手をほぐしてくれる温かさと、
ほんのり香る柔軟剤の香り…
あきら:あ!よく当店の工夫ポイントに気が付いてくれましたね(笑)
パリからママセレクトの柔軟剤を取り寄せて香りづけにちょっと入れてるんです。
そんなところにも気が付いてくれるなんて、さすがゆみさんお目が高い!!
ゆみ:でしょ~細かいところに気が付いてしまうのは職業病かも(笑)
あきら:ゆみさんは、介護のお仕事でしたっけ??
ゆみ:そうよ!!私前に言ったかしら??
あきら:一度どこかで聞いたことがあるような気がします。
ゆみ:え~~~忘れちゃった(笑)記憶がないなんて、、、歳かしら、、、ショック。
あきら:まだまだお若いですよ!!ただの飲みすぎだと思いますよ(笑)
ゆみ:そんな飲んだ時もあったかしらね~~。
最近は、中々飲む機会も減ったわね。
あきら:あら、最近はお酒飲まれないんですか?
ゆみ:そうね~男とお酒にのまれることは減ったわ(笑)
あきら:も~~すぐそういうこという~(笑)
ゆみ:しょうがないじゃない~言いたくなっちゃうお年頃なの。
でも本当にお酒飲む機会は減ったわね。コロナ禍くらいからかな。
あきら:あ~自粛期間で、ですか??
ゆみ:それもあるんだけど、仕事上飲めなくなったって言うのが大きいかもしれない。
あきら:介護のお仕事が大変で..?
ゆみ:それはずっと大変なんだけど(笑)
ご入居されてるおじいちゃんおばあちゃんがコロナにかかっちゃうと
もう命に係わるでしょ?
だから私たちも必死に対策はしてたんだけど、罹患した人がどうしても
出ちゃうのよね。そうなると、もうほぼフロア閉鎖状態で。
もともと認知症の介護って大変なのにそれに加えて、感染対策のピリピリした
緊張感も加わったから結構な人が辞めちゃってね。
あきら:大変ですね。。。
ゆみ:そうそう。次の人も中々入ってこなくてね~。
ほんと人手不足!!!!!!って感じよ。猫の手も借りたいというか~
だから私ほぼ毎日朝から晩まで働いてるのよ。
あきら:ま、ま、毎日?!
ゆみ:そうよ。毎日毎日毎日。
あきら:ほーーー。新しい方は入ってこないんですか?
ゆみ:いい質問ね。それが中々ね~。応募が来ることは来るんだけど。すぐやめちゃったりして、定着してもらうのが、難しいのよ。
あきら:そうなんですね。やはり、お忙しいから?
ゆみ:もちろんそれもあるだろうけど、人間関係の部分も大きいのかも。
実はうち、働いている人の年齢層がとっても高くてね。60代、70代の方もパートとして働いててね。施設の利用者さんより年上なんてことも結構あるのよ。
そのお年まで、しっかり働かれているのってすごいことだと思うんだけど、長く生きてこられた分「ここはこうしたい」ってこだわりが強い方が多くてね~
なんというか、少しいい方良くないかもだけど、ちょっと頑固な方多めなの。
特に、料理とか掃除、洗濯に関してはね。
あきら:長年やってこられた自信がありますもんね。うちの祖母もそういうタイプかも(笑)
ゆみ:だから、嫁姑関係みたいに結構ギシギシしちゃうこと多いのよね~
「●●さん、トイレの拭き掃除甘かったわよ」
「●●さん、今日のご飯の味付け少し薄いわね」、、みたいな。
悪気はなくて、もっとよくできるよってアドバイスなのかもしれないけど...。
あきら:ドラマでよく見るやつですわ(笑)
ゆみ:そうそう(笑)
私の年代、あ、私は華の50代なんだけどね(笑)
ちょうど職員の中で中間くらいの年代だから調整役みたいになってるのよね。
ほんとしんどいわ~(笑)
でも、お互いに悪意はないのはわかっているからどうつないだら真意が伝わるか、
職場環境がよくなるのか考えるのは私の今のちょっとした楽しみの一つかな。
あきら:どんな状況でも楽しめるって素敵ですね。
ゆみ:楽しまないとやってられないってところもあるけど(笑)
あきら:でも、私、お味噌汁の味付けって自信ないんですよね。
あの料理ってシンプルだけど家庭の味が出るし、何より、自分の料理の下手さ、
雑さが見えちゃいそうで人に作るのためらっちゃいます。
ゆみ:慣れよ、慣れ、慣れ(笑)作ってれば、あ~こんな感じかな~ってなってくるの。
最近はさ、外国の方もうちで働きたいって来てくれるのよ。
でも、その人たちが一番ネックだって言ってるのは料理ね。やっぱり自分が食べてきた味付けとか、見た目の感覚とかと全く違うからそこが難しいらしい。
あきら:確かに。薄いとか濃いとかその感覚ってこれまでの経験から来てますもんね。
ゆみ:そうなのよ。でもま~日本人でも料理に慣れてなかったら誰もが通る道だからね。
人に食べてもらう料理はほんと難しいなと思うわ。
私ね、これまで「異文化」って外国の文化のことを言うのかなって思ってたの。
でも、年代を超えた人の持つ文化も「異文化」だし、
究極を言えば他の人が持つ文化って「異文化」よね。最近そう考えてるの。
あきら:そういう風に考えたことなかったです!面白いですね!!
ゆみ:そんな風に言ってもらえると照れちゃうな~(笑)
んで、たくさんの文化とか感覚を持ってる人の中では、調整役にまわれる人がいないと成り立たないじゃない。その役割を担える人が大人かな~って思うのよね。
あきら:おぉ!!
ゆみ:ママ、大人とは何ですか?って聞きたかったんでしょ??(笑)
私は、色々な文化とか価値観とか立場の人がいる中で、
調整役にまわれることが大人だと思うわ。
あきら:えぇーーーー。預言者ですか??(笑)
ゆみ:ううん(笑)この間、吉田のおっちゃんに質問してたの聞いてたから。
あきら:あ~~。そういうことだったんですね。
ゆみ:そうよ、じゃなきゃわからないじゃない(笑)
それで、ママの大人って何??
あきら:大人か~~。何が大人かだんだんわからなくなってきました。
ゆみ:まだまだ青いわね~~。いいの、若者よ、存分に迷いなさい。
孔子も「四十にして惑わず」って言ってるし~
つまり、40までは迷うしかないのよ。
でも、考えるのをやめたらそこで試合終了よ。若者よ、考え続けなさい。
次きたときも、「大人とは何?」って聞くからね(笑)
あきら:はい!!!それまでにもっと迷います!!!
ゆみ:そうだそうだ!!いけいけ!!まよえ~~~~!!
いつも嵐のように来て去っていくゆみさんは、今日もママの心に考えるべき課題を残して去っていった。
あきら:大人とは何か...か。最近聞くだけだったな。
ママは机に垂れた醤油を拭きながら、最近の自分の言動を反省しながらも大人とは何か考えていたのでした。
12月号おしまい