第3回
周りを助ける大人
お客様:グエンさん家族(チャンさん/ハーさん/ホアちゃん)
ミーンミンミンミン、ミーンミンミン
あきら:もう8月も終わりか。やりたいことは多いのに何にもできてない気がする。
スナックあきらは、7月から8月の半ばにかけて長い夏休みを取っていた。あきらママは、休みの前、本を読んだり絵をかいたり、美術館に行ったりなどたくさんの夏休みの計画を詳細に立てていたが、結局達成できたものは、「何もしない日をつくる」のみであった。そんな夏休みの後悔をしながら机を拭いていると…
ガチャッ
???:すいません。3人いいですか?
あきら:あれチャンさんこんばんは~。もちろんですよ。何人でも大歓迎です。
???:ありがとうございます。
ママ行きつけの某有名ハンバーガー店でよく隣に座るチャンさんが妻のハーさんと3歳のホアちゃんを連れて家族3人で来店した。
???:いっぱいコップいるね。チョコレートある?
ハー:すみません。気にしないでください。ホアちゃんはチョコレートが好きなんです(笑)
あきら:かわいいですね♡♡コップたくさんあるんだよ!チョコレートか…ちょっと待ってね。
ホアちゃんに会ってから数秒ですっかり彼女の虜になったママは、店の裏から夜食でこっそり食べようと思っていたチョコレートを取り出し、ホアちゃんに渡した。
ホア:ありがとう~
あきら:いいえ♡最近暑い日が続くから夏バテしないようにたくさん食べてね。
チャン:本当に暑いですよね。ベトナムも暑いけど、日本も暑いです。暑すぎます。
あきら:たしかに、クーラーなしでは生きられないですよね。あ!みなさん何か飲みますか?
ホア:にゅーにゅー。白いの。
あきら:しろいにゅーにゅー…。牛乳か!わかりました~
チャン:私はコーラで。
ハー:私は、、、レモンティーありますか?たくさんお砂糖入れてください。
あきら:はい!わかりました~すぐお出ししますね。
ハー:ありがとうございます。一人でお店をするのは大変ですか?
あきら:いえいえ!そんなことはないですよ。お客さんがだれもいないときは寂しいですけど…(笑)
チャン:実は私たちも、日本でベトナムレストランを開きたいと思ってるんですよ。「バインミー」って知っていますか?
あきら:あ!知ってます!あのサンドイッチみたいなパンですね。フランスパンみたいな細長いパンに野菜とかお肉挟むやつ。
ハー:そうですそうです!日本ではあまり知られていないですよね。
あきら:ハンバーガーとかに比べたら…そうですね。そこまで有名じゃないかもしれません。
チャン:私たちは、ハンバーガーくらいバインミーを日本で有名にしたいと思っていて。少し大きすぎる夢かもしれませんが(笑)
あきら:素敵な夢ですね!その夢のために日本に来たんですか?たしかお国はベトナムでしたよね?
チャン:実はそういうわけではないんです。私は、ベトナムで4年制の大学を卒業して、1年建築関係の会社で働きました。最初は日本のコンクリートと土木の技術は本当にすばらしくて、大きな関心を持って来日しました。
あきら:へー。すごいんですか。。。知らなかったです。
チャン:知ってください!!(笑)ベトナムでは、海のたくさんの橋が架かっていますけど、材料や海水の影響もあって、壊れてしまうこともあってそれが問題になっているんです。だから、日本でコンクリート技術を学んで、研究してベトナム社会の発展を支えたいと思っていました。
あきら:国のために…すごくはっきりとした問題意識と目的の中で来日したんですね。
ハー:チャンさんは日本大好きなんです。いつも、「日本は~日本は~」って話します。
チャン:そうそう。ベトナムで出会ったコンクリートの専門家の日本人から、仕事への姿勢とか相手を思いやる気持ちを感じて感動して…。日本の文化とか慣習とか学びたいなって。
あきら:素敵ですね。ハーさんとは日本で出会ったんですか?
ハー:いえいえ。ベトナムにいるときからの付き合いで。チャンさんは日本が大好きなので、結婚をしてから日本に来ました。
あきら:そうだったんですね。
ハー:ベトナムでは、4年制の大学を出て、英語を使って国際銀行で6年働いてました。
あきら:すっっごい!!
ハー:とてもやりがいのある仕事でした。友達もいるし、休みの日には、貧しい地域にボランティアに行ったりもしました。
あきら:じゃあ、日本にはあまりつながりはなかったんですね。
ハー:そうですね(笑)チャンさんがいるから来ました。なので、日本語には今もとても苦労しています。特に、ホアちゃんが生まれるときは、コロナでしたからチャンさんもいないし。全然知らない言葉をずーーっと言われて大変でした。
あきら:そうですよね。
チャン:でも今、ハーさんはたくさん日本語を勉強します。スーパーの工場で箱詰めアルバイトもしています。
ハー:そうですね。今は、チャンさんと一緒にバインミーのレストランをすることと日本語能力試験N1を取ることが夢です。
チャン:私は、ベトナム社会をよりよくするために、日本に来ました。けど、最近思うのは人が良ければいい社会ができるんじゃないかなってことです。もともと社会は人々の集まりですから。人、つまり自分が自分の夢を信じて頑張ってその気持ちをみんなにもシェアしたいです。そしたらいい社会を作ることになるんじゃないのかなと思います。
あきら:夢かぁ…。
ハー:ママは夢ありますか?
あきら:んー最近考えたことなかったですね。昔は宇宙飛行士かスーパーのレジ係になることでしたけど。
ホア:ホアちゃんね、かきかきするの夢だよ。
あきら:画家さんか~!!いい夢だね。
チャン:人生は一度きりですからね。お金とか家族とか人間関係とか現実には色々な制約がありますけど、何でもやってみないと意味がないんです。
あきら:確かにそうですよね。夢って最近考えていなかったです。チャンさん、ハーさんにとって大人って何ですか?
チャン:お金持ちですかね。
あきら:お金持ち?!
チャン:そうです。世界的キャラクターのエルモも言っていました。お金持ちになって、周りの人を助けられる人が大人だと思います。
あきら:エルモそんなこと言ってたんですね。。。。ハーさんは?
ハー:自分だけじゃなくて周りを手伝える人が大人なのかな。チャンさんは、その手段として、お金をあげていますけど、それだけじゃないのかもしれません。まだ私もよくわかりませんけど…。
ホア:まーまー行こうよ~まーまー。
チャン:あ、もうこんな時間ですね。ホアちゃんがいるので今日は帰りますね。
あきら:そうですね。もうそんな時間になってしまいましたか。また来てください!
ハー:今日は本当に楽しかったです。また来ます。今度は一人でも(笑)
あきら:はい!いつでもだれとでもいらしてください。
カランカラン
あきら:はぁ…今の夢か…。
3人が帰り静かになったスナックで自分の夢について考えながら、あきらママは店じまいをしたのでした。
9月号おしまい