第2回
変えられない過去を変えようとする大人
お客様:裕次郎先生
レポーター:新型コロナウイルス感染拡大により制限されていた「七夕まつり」ですが、今年は制限なしで行われました。「いや~ほんブチっ(テレビを切る音)
あきら:七夕、もうそんな時期か…。もう過ぎちゃったけど…。
ガチャッ
???:あっついね。やってますか~
あきら:暑いですよね。うちはクーラーガンガンですからどうぞ涼んでください。何か飲みますか?
???:あ、バーボンのハイボールをお願いします。
あきら:は~い。お客さんは、運動か何かされた後ですか?
???:そうなんですよ。今、近くのスポーツセンターでイベントがあって…。そのあとの一杯飲みたくて初めて来てみました。あ、ちなみに裕次郎です。
あきら:裕次郎さんですね。もしかして、裕次郎さん体育の先生だったりします?雰囲気で予想してみました(笑)
裕次郎:ん~正解…体育の先生だったと言えばいいかな。今は違うんだけどね。大学でてから、35歳くらいまでは体育の先生してたんです。
あきら:35歳までなんですね。その後は別の仕事…?
裕次郎:その後は、中学校で副校長やって教育系の行政機関に入って、校長やって…。
あきら:え?!35歳で副校長先生??ずいぶんお若いですね。
裕次郎:テストに受かっちゃったんだよ。
あきら:え、、、すごいですね。みんな受かるもんなんですか?
裕次郎:いやいや、そんなことはないんだけどね。色々あって(笑)
あきら:色々?!聞かせてください。
裕次郎:何十年も前だけど、初めて着任した中学校は都心の学校だったの。それなりにやんちゃな子もいたけど、授業も部活もなんか上手くいってさー。
あきら:部活??
裕次郎:そう。当時はバスケ部の女子の顧問になってね、なぜか部員も100名を超える数がいたし、同じ区域にある全国1位のバスケチームに勝てたりなんかしてさ。練習ゲームの話だけどね。もちろん近隣の地域の中で負け知らずのチームになったんだよ。
あきら:部員数にもびっくりですけど、練習ゲームとはいえ全国1位のチームに勝てちゃうなんって…しかもバスケですよね。すごー
裕次郎:それは、部員に170センチを超える双子がいたり他にも能力の高いメンバーが偶然にもそろってたんだよ。
あきら:あ~そう言うことだったんですね。
裕次郎:でも当時は独りよがりのバカな指導者でさ、部員が集まるのも当たり前、勝てるのも自分の指導のおかげだって普通に思ってたんだよね。
あきら:私でもそう思っちゃうかも。全国1位に勝てちゃうなんて。
裕次郎:まあ、こんな感じで部活でも授業でも新しい指導法を取り入れたりして上手く行ってるな~ってときに、ある地域の校長から依頼を受けて転勤になって。
あきら:えーーーそうなんですね。いい先生だからいろんなところが欲しがりますね。
裕次郎:(笑)でもね、転勤先の学校が手も足も出ないくらいのやんちゃもんが多くてさ。初めての全校集会であちこちから煙が上がってるのね。
あきら:煙?火事ですか??
裕次郎:まさか(笑)タバコだよ。
あきら:中学生なのにタバコ!!!
裕次郎:それもかなりの人数ね。その状況でも先生たちは何も言えないくらい荒れてる学校だったの。
あきら:ヤンキー映画みたいですね。
裕次郎:まだまだこんなもんじゃなくてね、新しく赴任したほかの先生がタバコを注意したらドーーーーーって人が押し寄せてきて、もう収集つかないくらいに。職員室に戻ったらベテランの先生が「朝の集会にいる子たちは時間通りに集まるからいい子です。一軍は、お昼前にやってきますから。」って言われてさ~
あきら:えーーーーどんだけーーー?!
裕次郎:先生の言う通り、10時過ぎくらいかな、「3連ホーン」鳴らしながらボスが来るの。職員室にはね、ボスの子専用の机と椅子と電話が置いてあって、それでいつも出前とったりなんかして。
あきら:信じられない…。
裕次郎:全国的に荒れてる時代だったからかな。でも、そんな環境に入って、ようやく、前の学校の子どもたちが部員として集まってくれることが当たり前じゃなかったこととか、部活/授業が自分が教えることだけでは成立しないって分かったんだよね。
あきら:うんうん。
裕次郎:そういう反省をしながら、もっと勉強続けないとな~って強く思ったんだよね。「荒れてる。」だけで終わらせないで、なぜ荒れているのか、どう接するといいのかことを知るために、心理学とかを勉強し始めて、子どもたちとガチで話し合う中で気持ちが通じ合う体験をして。
あきら:気持ちが通じ合う体験ってどんな体験ですか?
裕次郎:話をする中でさ、「大人ってだけで理不尽なことするのやめろ」って気持ちを力ではなく、ことばで表してくれた時とか、ことばでぶつかり合った後に、理解を得られた時とか。
あきら:「荒れてる」子どもたちにも主張があったんですね。
裕次郎:そうそう。「荒れてる」とか「勉強ができない」とかマイナスのレッテルを張って決めつけるだけでは何も変わらなくて、対話の中でお互いの意見を聞き合うことが大事だって、教師が全てを決めつけたり、教えたりするだけじゃないって学んだんだよね。
あきら:たしかに!子どもだって、ちゃんと考えはあるのに!!って思うことあったな。
裕次郎:大人の立場が長くなると忘れがちだよね。その後、副校長、校長になったり、教育系の行政機関で働いたり立場が変わると「先生」に保護者や子どもと分かり合えるようになってほしいとか、個性のある先生たちをどう活かすかみたいに自分の視点も増えていって。
あきら:先生もいろんな方がいますもんね。
裕次郎:そう。様々な事情を持つ先生に、こうしてあげたいっていう感情と厳しいルールの間で心苦しい気持ちになることもあったけどね。
あきら:上に立って決断する方も大変ですよね。
裕次郎:うん。そうかもしれないね。振り返ってみると本当に後悔ばかりだけど、それを少しでも返せるように残りの人生生きていきたいんだ。
あきら:ほ~!
裕次郎:自分の失敗や苦労した話を今の若い副校長、校長先生が悩んでるときに伝えることができれば、自分のしてきたことよりもその人たちはさらに前に進めるから、近隣の学校から相談があればいつでもその相談に乗るようにしてる。これは自論だけど、教員は、夢がかなわなかった人たちの集団だと思う。例えば、体育の教員は、自分が専門とする種目で、本当はプロのプレイヤーになりたかったけど、それがかなわなかった人たち。他の専門の先生にもそういう人がいると思う。もちろん私のその一人。だから、自分の思いを押し付けたがる傾向が強いのかな。。。
あきら:そんなそんな!!私は何かを決断しなければいけない立場になったことがないけど、悩んでるときに経験者に相談できることがどれほどありがたいか…それは何となくわかるな~
裕次郎:そうだといいんだけど(笑)
あきら:学校でという環境で「子ども」と接してきた裕次郎さんにとっての大人って何ですか?裕次郎:一言でいうとだもんな…難しいな。。。『変えられない過去を変えようとしてる人』かな。
あきら:変えられない過去…。
裕次郎:これまでを振り返ると後悔ばかりだけど、後悔は大人になった証だと思う。全力で後悔してね。過去は変えられないけど、過去の意味は変えられるかもしれないから。悔いを繰り返さないようにはどうするべきか考えて行動し続けるのが大人だと思うよ。後悔は、まだ見ぬ世界への“航海”ともいえるのかもしれないね。あ!!そろそろ雨が降りそうだね。帰ろうかな。
あきら:そこにある傘貸しますよ!!持って行って~
裕次郎:ありがとう。また来るね。
ガチャっ
あきら:後悔(航海)は大人の証か…新しいな。。。
7月号おしまい