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​しんちゃんの教師物語(15)

しんちゃんはある夏、サマーキャンプで日本語を教えたことがありました。

期間は1週間ぐらいで日本語を教えるというより日本語と日本文化を紹介するような1週間ぐらいのキャンプでした。

キャンプとはいっても別にテントを張るわけでもなく、まあ夏学校のようなものでした。

対象は小学校高学年から中学生。

先生として雇われた人たちが教えることに集中できるように3つあった各クラスには高校生が見張り役?

(言うことを聞かない生徒の「相手」をする役)として1クラスに1名ついていました。

しんちゃんは普段大学生を教えているので、小中学生がどんな感じなのか、

半分わくわく、半分緊張しながらこの仕事を引き受けました。

もう25年ぐらい前のことなので、授業で何をしたかというようなことはほとんど覚えていないのですが、

強烈に覚えていることが2つあります。

一つは「かわいそう」ということについて。

ある日キャンプのTシャツがあって、授業の前後に教員を含め関係者でそれを折りたたむ仕事をしていたのですが、

しんちゃんはその時Tシャツをちょうど胸のところに折り線ができるように4つにたたんでいました。

すると、アメリカ人のあるお母さん?がしんちゃんのところにやってきて

「あらあら、これじゃこのTシャツを着た子は胸の前のところに折り線が来ちゃうじゃないの。そんなのかわいそうだわ」と…

しんちゃんは、心の中で「ええっ」と思いました。

なんでTシャツの胸のところに折り線が来たぐらいでかわいそうなんだろう、こんなふうにかわいそうと思う人がいるから、

Tシャツの胸のところに折り線がついた服を着てる子が本当にかわいそうになっちゃうんじゃないかと…

でも、やっぱり折り線が前に来るのはかわいそうなのかなあとも…

実はこのかわいそう問題、その後もいろんなところで遭遇することになります。

そんな間違いだらけの日本語で直してあげないとかわいそうじゃないと…

もちろん、時と場合によるとは思いますが、相手に通じないレベルであれば、

必要があれば相手はわからないといってくれるでしょうし、

そもそも自分の話している英語もそんなにかわいそうなのかなあと自省してみたり。

そもそもかわいそうだと言われた本人は自分のことをかわいそうだと思っているのかなとか…

かわいそうな人を助けている自分に酔っていないか?

相手のことをかわいそうと思うことは相手を自分と対等とみているのか

(ある国の首相がたどたどしい英語のスピーチをしていても、この首相、大丈夫か?と思うことはあっても

あんまりかわいそうと思う人はいないんじゃないかと思います。)などなど、この問題は奥が深いことに気づきました。

自分が良かれと思っていることが、本当に相手にとって良いことなのか…

しんちゃんはその後この問題を考え続けています。

教師って基本的におせっかいですしね…

このキャンプでもう一つ忘れられないのは、3人の問題児。

日本キャンプの教師を統括するボス教師?(すみません…イメージは太陽にほえろの石原裕次郎?)は

ちょっとこわい威圧的な感じのアメリカ人の女の先生でした。

彼女はいつも睨みをきかしていて、ちょっとでもたるんでいるような素振りを見せる生徒がいようものなら

ギロっとその生徒を睨み、睨まれた学生は震え上がるみたいな感じの先生でした。

その3人の男子生徒はまあちょっとやんちゃな感じでいつも3人でつるんで、

授業の話も聞かずおしゃべりをして他のクラスメートとはちょっと別行動みたいな感じのグループでした。

その生徒たちは案の定、そのボス先生にすぐに目をつけらました。

ただ、しんちゃんがよく見てみるとその3人にはやんちゃな中にも誠実さがあるように見受けられました。

授業の後でキャンプの一行事としてボーリングに行く機会があったのですが、

しんちゃんはその3人組のグループの隣のレーンで他の先生たちとボーリングをしていました。

彼らはいつものようにふざけながらも、やっぱりいいスコアを出したいのでしょうか、

恥ずかしそうにしながらも、3人中二人はしんちゃんがいうアドバイスをわりと素直に聞いていたのです。

一人はあまりにも下手くそなので諦めようとしていた時に、

他の二人がせっかくしんちゃんがアドバイスをしてくれてるんだからちゃんと聞こうと励まし、

そのおかげかその下手くそな学生もピンを当てることができ、みんなで喜び合っていました。

しんちゃんはなんて仲間思いの素直な子たちだろう、

ちょっと恥ずかしくて周りとうまくコミュニケーションが取れないだけなんじゃないかなと思いました。

その翌日、例の3人組がクラスに来ていません。不思議に思ってボス先生に聞くと、

「ああ、あの子達ね。問題ばっかり起こすからもうキャンプに来てもらわないことにしました」と…

しんちゃんは正直がっかりするよりも何か少し怒りのような感情を持ったことを覚えています。

しんちゃんにとっては問題児でもなんでもないただのちょっと恥ずかしがり屋の元気な男の子たちだったのに…

何もできなかった自分が本当に悔しくて悔しくて、いつかこの問題に対して何かできる自分になろうと強く思いました。

その後、しばらく経ってしんちゃんは夏の函館のプログラムで日本語を教える機会がありました。

そこで友人から紹介を受け、当時未来大学にいらした刑部先生を尋ねることに…

保育園でフィールドワークをする予定にしていたので、発達心理学がご専門の刑部先生を紹介されたのです。

そこで紹介された論文は今でもしんちゃんの心に残る論文の一つ。

この論文を読んで思っていたことがストンと落ちました。

この後、賞も取られたという記念碑的論文。みなさまにもおすすめです。

刑部育子「「ちょっと気になる子ども」の集団への参加過程に関する関係論的分析」

その後、刑部先生を通じてしんちゃんの大ファンの佐伯胖先生をご紹介いただき、

のちにプリンストンのフォーラムにも来ていただくことができました!

そのフォーラムのご講演を軸に佐伯先生と

『かかわることば―参加し対話する教育・研究へのいざない―』(東京大学出版会)

一緒に編集させていただくことができたことは今でも夢のような話です。

人の出会い、つながりって本当にどこでどうなるかわからないものですね。

(編集後記)

しんちゃんの教師物語を書いていて一番難しいのは、

ふと気を抜くと一人称がすぐに私か僕になっていること(今回も8つも!)。

これは自分でも驚くほどです。

毎回検索をかけて一人称が「しんちゃん」になるように確認しているのですが、それでも見落とすことも!

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