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しんちゃんの教師物語(5)

アメリカのホームステイの旅から帰ってきたしんちゃんは、

海外で受けたさまざまな刺激、コミュニケーションが難しい中で通じた!という実感を得た時の喜びなどで

もっと海外を見てみたいなと思っていました。

その後、大学の卒業旅行にアジアのバックパックの旅をするのですが、その話はさておき(前にもさておいた気がしますが…)

今回はしんちゃんが就職し東京に出てきてから知り合いになったハワイ出身の日系人の友だちノアの話をしたいと思います

(なんでこんなに話が飛ぶのかわかりませんが、

時系列に書くよりも書きたい気分の時に書きたいことを書くのが筆が弾むので…)

ノアはハワイの大学で日本語を勉強して、それから日本にやってきました。

大学時代もホノルルの店で日本語も話すアルバイトとして雇われ、そこでも日本語を使っていました。

日本に来たのはもっと日本語が上手になりたいと思ったからだそうです。

ノアは東京の小さい英会話学校で英会話の講師をするためにやってきたのですが、

同じ英会話学校の同僚の教員と時間を過ごす中、ある事実に気づきます。

それは日系のノアと、日本人には見えない同僚の扱いが日本では全く異なるということ。

ノアの日本語は今考えてみると上級の下あたりだったんじゃないかと思います

(最近も会ってますが、日本語はずいぶん忘れてます)。

ノアは自分が日本語を話すと日本語が流暢じゃない変な日本人って思われる、

でも、英語を話すとよく「うわあ、ネイティブみたい!どこで英語を覚えたの?」と言われると…

自分はネイティブなんだけどね、はははとよく苦笑いしてました。

それで、ノアは結局日本ではほとんど日本語を話さなくなってしまいました。

変な日本人になるよりも、英語がネイティブ並み(ノアはネイティブですが)のクールな日本人になることを選んだのです。

ノアはよく日本語を話す時と英語を話すときで相手の対応も全く違うと言っていました。

ノアと何人かの友だちといっしょに時間を過ごし、日本の人の対応を見るにつれ、

しんちゃんには理不尽な気持ちがむくむくと湧き上がっていきます。

ノアは日本語を一生懸命勉強したいと思って日本に来たのに….

その後、そのやりきれない気持ちはしんちゃんの心の隅にずーっと置かれていて、

結局アメリカの大学で書いた修士論文はこのやりきれない気持ちがもとになって書いたものでした。

ほぼ同じレベルの日本語学習者のスピーチサンプルをいくつか集め、

話者としてあるグループには日本人のような顔の人の写真を、もう一つのグループにはそうでない人の写真を見せ、

聞いている人がそのスピーチをどう感じるかをスケールで点をつけてもらう、

そんな実験をして、それを論文にまとめました。

自分の母校の先生に頼んで、高校でこの実験をしてもらいました。

結果は人の見かけは言語能力の判断には影響を及ぼさないが、話者の性格を判断する際には影響を及ぼすというものでした。(このスケールを使った調査について、しんちゃんはまた新たな疑問がむくむくと起き上がってくるのですが、

それについては次回…)

それからしばらくして、しんちゃんは日本の夏の集中講座で日本語を教えることになりました。

そこで学習者からノアの体験と同じようなエピソードを何度も何度も繰り返し聞くことになるのです。

ただ、前回との違いは、その体験を学生たちが授業の中で他の同級生何人かと語り合っているということでした。

多くの学生たちはレストランでよく英語のメニューを渡されたり、英語で話しかけられることに不満を持っていました。

それとは逆にアジア系の学生は相手が日本語でものすごい勢いで話しかけてくることに戸惑っていたのです。

そんな経験を話す中で、ある学生が

「でも、相手の日本人は私たちが日本語を話せるか、話せないか、外国人か、日本に住んでいるかどうかはわからない。

英語で話されたら、「日本語を勉強しているから、日本語で話してください」って言って、

相手が「ああそうなんですね」と日本語で話してくれたら、それでいいじゃないか」と…その言葉に私ははっとされられました。嫌だなあと思っているかどうかは相手にはわからないこともある。

嫌だなあと思ったことは(いつもではなくても大切な時には)相手に伝えるようにしないと、

相手は嫌だと思っていることすら気づいていないかもしれない… それが物事を変えていく大切な一歩なのだと…

私は授業の中でいつも本当にいろんなことを習っています。

そして、何年経っても学生の何気ない質問やコメントからはっとさせられることがとめどなくあり、

それが教師という職業をやめられない理由の一つなのかもしれません〜

(執筆後記)

最近ノアに会いにハワイに遊びに行ったら、「ずーっと昔に送ってくれた修士論文、まだ持ってるよ〜」

と言ってわざわざどこから奥の方からひっぱり出してきてくれました。

うわあ、気付けばもう24年前の論文!

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