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書名:「活動型」日本語クラスの実践―教える・教わる関係からの解放
(スリーエーネットワーク、2022.4.7)
 
ヴェネツィアではじめて出会う日本語
市嶋典子
(秋田大学)

本書は、3か月にわたり、イタリアのヴェネツィア・カフォスカリ大学で行われた、アクションリサーチ・ゼロという活動の全記録であり、実践研究である。アクションリサーチ・ゼロでは、ゼロビギナーのARZ生(本書では、活動の参加者をAction Research Zeroの略称を用い、ARZ生と呼ぶ)がそれぞれ興味・関心のあるテーマに基づき、対話を重ね、少しずつ日本語でレポートを書き進めていった。

本書では、アクションリサーチ・ゼロを始めるに至った経緯から、ARZ生がレポートを書き上げ、評価するまでを詳細に記述し、活動の理念や理論の歴史的背景、評価の考え方についても言及している。活動中のやりとりを録音した音声を文字化したものも示し、できるだけ、現場の雰囲気を忠実に再現した。また、授業で使用した資料やARZ生のレポートや感想も掲載し、読者が活動全体を具体的にイメージできるよう構成されている。
 
本書を読み進めることで、活動をとおして、ARZ生達が協働的にことばを創造していく様子を追体験することができる。活動の中で、ARZ生が自身の言いたいことを伝えるために必死にことばを探る様子、筆者らの意図がうまく伝わらず堂々巡りする様子、お互いに言いたいことが伝わり、喜び合う様子等々、活動中に生起した出来事をあますことなく記述している。
 
本活動の前半5回は、筆者の参与観察による記述であり、活動型日本語教育の提唱者である細川が実践者として奮闘する様子を垣間見ることができる。細川は、これまで、活動型日本語教育に関して、理念を中心に論じてきたが、細川自らが携わった実践の内実を示したものは少ない。本書をとおして、細川がこれまで言及してきた理念をどのように具体的な実践として実現しているのか、その具体的なプロセスを知ることができる。また、アクションリサーチ・ゼロの活動は、実質的には、マリオッティと筆者が発案し運営してきたものであり、二人が本活動を始めるに至った経緯や、いかに全16回の活動を完遂したかの軌跡、活動に対する思いを知ることができる。
 
本書でも言及したが、著者であるマルチェッラ・マリオッティは、ヴェネツィア・カフォスカリ大学で本ワークショップの原型ともいえる活動型日本語教育を実施してきた。その際に、周囲の同僚から、ゼロビギナーの学習者への実現可能性、有効性を問われ続けた。一方、筆者は、主に日本国内の大学で活動型日本語教育を行い、対話によって多様な価値観が交換できる場の構築を目指して活動してきた。また、そのような場の構築は言語レベルによって制限されるべきものではないと考えていた。筆者とマリオッティは問題意識を共有することができたことにより、すぐに意気投合し、実践のこと、研究のことを毎日のように語り合った。そして、ゼロビギナーを対象とした実践を試みようと決め、細川を共同実践者として招くことにした。それからは、二人で活動の具体案を考え、ARZ生を募集し、場所を確保するなど、準備を整えることから始めた。そして、活動を進める中で、初級/ゼロビギナーという固定観念を解き放ち、一人一人の思考の探求とことばの形成を実現するための自由な表現の場の構築が不可欠であることを確信した。
 
本書をとおして、ARZ生が自分の言いたいことを表現していくプロセス、筆者らが試行錯誤しながら活動を進めていくプロセスを読者の方にも体感していただけたら幸いである。また、本書は、日本語教育のみならず、国語教育や外国語教育、そして、ことばに関心を持つ多くの方々にも手に取っていただきたい一冊でもある