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言語文化放浪
〜多文化集結309号室・志賀高原スキー合宿編〜

放浪者が地域のことばに着目し、風土とともにことばに対する愛をお届けします!

​1月号はまきこママのスキー合宿でのお話しです。

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 ここ数年、まきこママは年末年始を志賀高原で過ごしている。スキースクールに参加し、足前を磨いているのである。一般客向けの合宿、と言えばいいだろうか。たいがい、スキースクールの客は一人で参加し、相部屋に収監される。トイレ・バスはむろん共用である。8畳ほどの部屋に2人、多い時は4人が寝泊まりする。スキーは荷物が嵩むので、布団を引くと荷物の置き場に困り、押し入れに押し込んだりする必要がある。リピーターであれば見知った人と同室の可能性が高いが、部屋のメンバーのマッチングは宿側の都合で決定されるので、見知った同士が希望しても、滞在日数が違えば同室にならない可能性が高い。しかし、そんなことは客にとっては重要ではない。かれらはスキーのコーチからスキーを習うことが目的なのである。

 この年末年始、まきこママが滞在していた309号室には、4人のルームメイトが入れ替わり立ち替わり、という状況だった。みんな日本のさまざまな地域から志賀高原を訪れていた。そして、それぞれがユニークだった。
 最初のルームメイトは、東京在住だが奇遇にもママが住んでいる茨城県出身のAさんだった。しかも、ママの住む町の隣の隣の町だった。当然、茨城ネタで盛り上がった。Aさんの茨城アクセントが強いので、茨城ネタはさらにリアリティを深め、ママは長野県にいることをしばし忘れたぐらいだ。彼女の父は素潜りの漁師だったそうで、ママはAさんの話から、鮑やウニの漁の方法について学ぶことができた(しかし、もちろんママがすれば密漁となるので話を聞くだけだ)。
 Aさんが去って次に309号室にやってきたのは、闘病のため2年ぶりにスキーに復活した大阪に住むBさんだった。Bさんは、ママの顔見知りだ。久々の再会に話が咲いた。何よりBさんがゲレンデに戻ってきてくれたことが、心から嬉しかった。が、病気の話はほとんどしなかった。だから病名さえママはいまだにわからない。闘病生活の話よりも、スキーのターン方法のあれこれやコーチの教え方、Bさんが部屋で愛用していた美容器具についての話が盛り上がった。盛り上がりすぎて、ママはその美容器具を楽天でポチってしまったほどだ。
 Bさんがやってきた翌日、309号室に同居人が一人増えた。ママと同じ滋賀県人のCさんである。Cさんはママの高校時代の友人だ。ママが彼女をこの合宿に誘った。CさんはBさんと一度会ったことがあるが、顔見知りというほどではない。が、CさんとBさんはすぐに打ち解けた。3人は関西弁でボケとツッコミのロールを回し合い、毎晩、その日のスキーレッスンでの出来事を肴にしてゲラゲラ笑い、狭い部屋でコの字型になって寝た。
 BさんとCさんが去り、次にやってきたのは北九州出身、東京在住のDさんだった。とにかく上品で礼儀正しかった。電気をつける、消す、鍵をフロントに預ける、預けない、温泉に先に行く、後に行く、食事の時間にちょっと遅れる、だいぶん遅れる、いちいち丁寧に確認し、きちんとお礼を行ってきちんと無礼(実際は無礼でもなんでもない)を詫びた。ママは、自分の日頃の品の無さに猛省した。

 志賀高原のスキー合宿には、北関東〜九州からさまざまな人がさまざまな文化と言葉をひっさげ、やってくる。みんな309号室に約束して集まってくるわけではないが、みんなスキーが上手くなりたいという同じ目的を持っている。会社員、専業主婦、リタイアした人、医者、看護師、保育士、教員、介護士、不動産屋、洋服屋、いろいろだ。年齢、仕事はもちろんのこと、学歴、経歴、経済的な背景さまざまだ。スキーヤーという共通点で集まる者たちが、それぞれのユニークさを現すのが面白い。家族の話や仕事の話はほとんどしない。興味がないわけではないが、そこではあまり意味を持たない。その人がどんな人であるかが現れる。それが、ママには心地よい。家族や仕事のことはどうでもよいのだ。
 ママは、日常から離れた、仕事とは関係のない同一の目的を持った人たちとの、期間限定の空間を非常に気に入っている。そこでの人間関係は深入りする必要がないため、変にシリアスにならなくてもよい。とにかく、相手との相違点、類似点を見つけては面白がっている。多文化集結309号室。また来シーズンが楽しみである。

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