キム・へイン

金海仁

 

作家ノート

 

作家名:KEI

一見普通の風景に見えるこれらの作品は、一歩近寄ると違う顔を見せてくれる。全ての作品は「日常とファンタジーの共存」という共通したテーマを持っている。

メゾチントという技法で制作されたこの銅版画は、ファンタジー漫画の一場面ではなく、実在する風景の写真だと勘違いされるほどに、「現実感」が伝わってくる。メゾチントは繊細なトーンの変化が表現できる上に、他の版画よりテンポが遅いため、作品を創る作家にも、そしてそれを鑑賞する人にも安定感を与えてくれる。

私たちは、自分の目に映るこの風景が、他の人の目にも同じように見える、普遍的なものだと思っている。しかし、実はそれは自分の内面――過去のトラウマ・経験・信念・思想等――による、自分だけの目に見える自分だけの世界なのだ。

子供の頃から、ストーリーのある絵や漫画を描くことが好きだった。現実では出来ないものが紙の上では出来ることから、ずっと「日常とファンタジーの共存」をテーマに絵を描いていた。そしてある日、まるで夢のような経験をしてから、もっとこのテーマにハマってしまった。

あれは5歳の時の出来事だった。私は両親に連れられ、家から少し離れた大きな公園に遊びに行った。多くの人々で混雑していたその場所で、私は両親が目を離した隙に、近くの草むらへと入って行った。草は私の身長よりもはるかに高く、私は道に迷ってしまった。しばらく草をかきわけながら進んだ先は、「雨上がりにできた水たまり」と言われてもおかしくないほどに小さな池がある場所だった。そして、池の近くに佇む石の上には、全身が金色に輝くトンボが一匹止まっていた。照りつける太陽の下、金色の羽がキラキラと輝いて見えるのがとても不思議で、私は我を忘れてしばらくボーっとしてその光景に見とれていた。まもなくしてトンボは飛び立ったが、羽ばたきをするたびに、体の周りがキラキラしていた。まるでピーター・パンに出てくるティンカー・ベルであるかのように。道に迷っていたことも忘れ、その綺麗なティンカー・ベルが飛んでいく方向へと、再び草を押し分けて無性に追いかけた。そして、その先に偶然と、両親のいる所にたどり着いたのだった。

幼い頃に目にしたその光景は、私の目にしっかりと焼きつき、忘れることなく鮮明に残っている。私は度々、あの日の記憶をふと思い出している。おそらく、私が「想像」と「妄想」の間を行き来し始めたのは、その時からだったのではないかと思っている。ティンカー・ベルが存在する世の中。それがまさに「私の生きている世界」なのだ。毎日のように想像し続け、絵を描く。その過程の中で自然に、私の内面は何なのか、本当の私とは何なのかについて、無意識的に、絶えず探求してきたのだと思う。

私にとって絵を描くということは「日常」である。それは遊びであり、欲求のはけ口であり、精神的に追い詰められていた時には美術治療としての役割をも担ってくれた。私は、アートというのは、白い壁にかかっている作品を一方的に見ながら鑑賞するものではないと思っている。私は、私の創り出した作品が誰かの日常になることを望んでいる。嬉しい時や腹が立つ時、憂鬱な時、心身ともに疲弊している時。いつでも気軽に触れ合い、和むことができる癒しの時間を生み出してこそ、 芸術の本領の発揮だと思う。

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「コムリとは」

コムリは、黒くて太った体に細い手足、丸い目をした、画面のあちこちを旅する好奇心旺盛な生き物である。

その名は、「小さな仕草でずっと、ゆっくりと動く様子」の韓国語から由来している。

コムリは「私の生きている世界」に住んでいる自分の分身であり、ティンカー・ベルでもある。初期の作品の中でコムリ達は、現実を基にした風景に乱入して彼らの存在(=私の存在)をアピールしていたが、どんどんコムリの生きる世界に視線が向けられるようになった。心配のない、悩みのない、想像するものは何でもできる、紙の上を旅するコムリの痕跡を辿り、彼らの世界を覗き込んでみよう。コムリというティンカー・ベルを通じて、私が、そして観客たちが、疲れや憂鬱から抜け出して、安らぎを見つけて欲しい。

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共存 #2

サイズ300 x 200

技法・素材|銅版画・メゾチント

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共存 #3

サイズ 400 x 600

技法・素材|銅版画・メゾチント

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卒業展示会の時の写真

<左>

花クラゲ

サイズ 1200x800

技法・素材|銅版画・シルクスクリーン

 

<中央>

そこの世界~天国

サイズ 1200x2300

技法・素材|銅版画

 

<右>

古記録

サイズ 1200x800

技法・素材|銅版画・シルクスクリーン

 

<床の上>

通路

サイズ|サイズ可変

技法・素材|インスタレーション・ミックスメディア