第21回
「大人なんていない」と考える大人
(Bar キヨノリの大人エレベーター)
お客様:茨城県立歴史館 学芸員 武子裕美さん
2022年11月3日(祝)
「アフター」。それは、勤務時間または店の営業時間が終わった後にお客と一緒に他の店で飲んだり、カラオケしたり、焼肉食べたり、というようなイベント。まきこママにも、たまにアフターがある。今夜は、常連のおきよさんが、最後のビールのお代わりのあと「うちの店で飲みましょか」と誘ってくれたので、とっととスナックまきこを閉め、相模原に居を構えるBarキヨノリに乗り込んだのであった。
磯の香りのするスモーキーなスコッチをチビチビとやってる、その時。
チーーーン。
エレベーターの音がして、ショートカットに洒落たメガネの女性が入ってきた。
ひろみ:こんばんは。
おきよ:久しぶりに直接会えたね。4年半ぶり?相変わらず行ってるの?
ひろみ:まあね。この前は台風で、名古屋で足止めだったよ。次の日曜日は日立。
おきよ:行ってるね。昔は歌舞伎だったのに。
ひろみ:まあ、15年も経てばね。12月の彌十郎さんの意休は見たいけど。
おきよ:チケット取れなさそう。
笑顔で会釈するまきこママ。
おきよ:ああ、紹介します。純烈の追っかけです。
ひろみ:おい!!間違ってはいないけど。
おきよ:茨城県立歴史館で学芸員してるひろみさん。で、こちらはスナックまきこのまきこママ。
ひろみ:はじめまして。ひろみです。
まきこ:はじめまして。純烈?
まさかの純烈を知らなかったママ。
ひろみ:スーパー銭湯アイドルです。
写真を見せられて、余計にわからなくなっているまきこママ。
おきよ:まあまあ、純烈は置いといて。
まきこ:テレビ全然見ないんで。。。調べておきますね。で、二人はどういう繋がりなの?
ひろみ:えっと、修士の同期です。
おきよ:今は違うけど、もともと史学専攻だったので。
まきこ:全然、イメージない。
ひろみ:史学(しがく)じゃなくて、酒学(しゅがく)とか言われてましたけど。
おきよ:飲んでたからね。
ひろみさんがお土産で持ってきてくれた茨城の常陸野ネストビールで仕切り直し。
ひろみ・まきこ・おきよ:カンパーイ!!
おきよ:この梟、見たことあったけど、茨城だったんだ。ホワイトエール、美味しい。
まきこ:私もこれが一番好き。
スナックまきこは茨城に移転したとかしないとか。
ひろみ:常陸野ネストビールって海外輸出も多くて、国内販売より多いんじゃないかな。このビール作ってる木内酒造ってウイスキーも作ってて、そのウイスキーを原料にした消毒用アルコールがウイスキーの香りがしていいんですよ。
おきよ:へー。相変わらず、詳しいね。
ひろみ:生粋の茨城県民だからね。
おきよ:伊達に一橋家の研究してないね。
ひろみ:一橋徳川家。
まきこ:一橋徳川家の研究?
ひろみ:はい。もともとは大学で経営学を専攻してたんですけど、大学の時に、田沼意次が再評価されてて、そこから興味を持って、学部卒業してから、3年次編入で史学科に入ったんです。卒論で田沼研究は行き詰まってしまって。じゃあ、田沼の背景に誰がいたのかっていうのを考えると、一橋治済が影響力を持っていて、そこで一橋徳川家ってどういう存在なのかって考えた時に、当時はあまり研究がなかったので、研究しようと思ったんです。そうしたら偶然にも、地元の茨城県立歴史館が一橋徳川家の文書を持ってて、院生の時から通い詰めて、恋焦がれて就職した感じです。今は、史料保全、データベース化が主な業務ですね。
まきこ:経営から歴史って、なかなか面白い経歴ですね。
おきよ:そういえば、いろんな地域の史料保存とかしてたよね。あと、東日本大震災の被災地の史料保存とか。純烈の話は聞いてるけど、史料保存の話をちゃんと聞いたことがなかった。
ひろみ:史料保全ね。学部時代に史料整理をしていて、そのつながりで院生になってから「歴史資料継承機構じゃんぴん」っていうNPO法人の立ち上げから関わって、南伊豆の古文書の整理や報告会をしたんですよね。南伊豆以外でも、千葉とか東京なんかでも同じ活動をしていて、そこで東日本大震災が起きて。。。直後は何もできなかったんですけど、それから、少ししてから、茨城県内で茨城大を中心とした茨城史料ネットが立ち上がったので活動に参加させてもらいました。
まきこ:茨城史料ネット?
ひろみ:茨城大の学生を中心とした史料の救済・保全を目的とした団体ですね。茨城史料ネットで、くずし字を読めて、目録をとれる人材が手薄だったので、週一で活動に参加し、目録をとるレクチャーをしていました。そのうちに、院生時代から関わっていた先生たちのつながりで福島に行くようになりました。福島では、原子力災害で立入禁止区域になっていたお宅の蔵出しをしてました。
まきこ:蔵出し?
ひろみ:蔵や自宅に残された古文書などを保全する作業です。福島では放射線の影響があるかもしれないので、防護服を来て、ヘルメットをかぶって、安全靴履いて、マスク、ゴーグル、手袋をして、作業に当たりました。
まきこ:蔵出しした史料はどうするんですか?
ひろみ:例えば、福島県の富岡町ではアーカイブズ施設ができて、富岡の歴史や東日本大震災で被災した史料を保全して、紹介しています。他にも、大熊町でも、施設の建設について検討されているようですね。あとは、大字誌(地域史誌)を刊行する自治体も出てきています。
興味深く頷いているまきこママ
まきこ:歴史を勉強するってどういうことですか?
ひろみ:私は実学だと思っています。地域のアイデンティティだと。歴史があって今があるわけで、結局、歴史がないと今につながらないし、現在の自分の立ち位置もきちんと理解できないし。未来を考える上でも大事かな。
美味しいビールで少し船を漕いでいたが、ふと我に返るおきよ。
おきよ: 地域のアイデンティティ。自分が色々と移動している間に、地域っていう意識が薄くなってた。地域のアイデンティティ。確かに。
まきこ:人の記憶、土地の記憶は残さないと消えちゃいますもんね。
語りの熱気が、一緒に学んでいた時よりも、年々、高まっていることが心地いい。
ひろみさんは過去から現在、未来へ地域の記憶をつなげている。
まきこ:これお決まりの質問なんですけど、ひろみさんにとって大人って何ですか?
ひろみ:大人なんていないと思います。
まきこ・おきよ:おお。
ひろみ:みんな大人になんてなっていない。大人ぶってるだけで、みんな子供で、そのうち大人ぶれなくなるだけかと。
おきよ:大人でいないといけないとか無駄に思ってるね。
まきこ:無理して大人ぶる必要もないよね。
少し飲みすぎて意識が遠くなってきた
おきよ:そろそろ・・・
ひろみ:あっ、これ、お土産。栓抜きになってるネストビールのキーホルダー。今度、茨城来てくれれば、袋田の滝とか六角堂案内するよ。
おきよ:ありがとう。キーホルダー、シンプルでいいね。どっちも行きたいって思ってたけど交通が不便で。
まきこ:一緒に行きましょう。
ひろみ・おきよ:ぜひぜひ。
大人ぶらない二人は、まだ飲み足りない様子で松盛を求め、店を出て行った。(了)
文:キヨノリ
イラスト:西のマキコママ