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第5回

お母さんみたいな大人

お客様:城西国際大学 大学生 はるかさん

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前回の「大人へのエレベーター」のお客様は城西国際大学のはるさんだった。今夜は、そのはるさんと同じゼミで同じ学年の「はるかさん」がやってきた。

ママ:はるかさん、これまでにスナック体験は?
はるか:はじめてです。
ママ:そうなのね。スナックってどんなところだと思ってた?
はるか:なんか、ゆったりした音楽が流れていて…

 うーん、それはキザったらしいBarかもな〜。

はるか:オジサンがたくさんいるような…

ママ:その通り! はい、どうぞ。

 ママははるかさんの前に白ワインのサングリアを置く。

ママ:はるさんの卒論のテーマはフリースクールと聞いたけど、はるかさんのテーマは何?
はるか:日本語の継承語教育です。
ママ:ほー、継承語。興味あるなあ。どうして、そのテーマを選んだの?
はるか:言語学習って、自分が勉強したい言語を選んで勉強するものだって思ってたんです。継承語教育っていうのがあるって知って。それって、自分のやりたい言語ではなくて、お母さんのために勉強するってことになりますよね。だから、学習の動機を知りたいって思ったんです。
ママ:継承語教育には、どこで出会ったの?
はるか:大学で、日本語と韓国語で絵本の読み聞かせをする活動をしてまして。
ママ:まあ素敵。聞き手はだあれ?
はるか:韓国に住んでいる日韓家庭です。日韓家庭のコミュニティがあるんです。
ママ:日韓家庭?
はるか:お母さんが日本人で、お父さんが韓国人というのが多いです。3歳から小学生の子どもがいる家庭です。韓国語の絵本を日本語に翻訳して読んだり、韓国語でも読んだりするんです。オンラインで。その聞き手の日韓家庭のコミュニティで、継承語教育がされてるんです。
ママ:ああ、それで継承語に興味を持ったんだね。読み聞かせ、子どもたちの反応はどう?
はるか:楽しいって言ってくれます。また聞きたいって言ってくれたり。言葉に興味を持ってくれる子たちもいます。
ママ:韓国語を日本語に翻訳するのは大変じゃない?
はるか:難しい部分もあります。韓国語のオノマトペを日本語のオノマトペにすると、なんかニュアンス違っちゃったりして。「キラキラ」とか。あと、韓国って家族の中でも敬語を使いますけど、日本ではそれが不自然になるので調整したりとか。
ママ:なるほど〜。はるかさんは、そもそも、どうして韓国語に興味を持ったの?
はるか:お母さんが韓国ドラマをよく見ていて、私も見るようになりました。そのうち、韓国ポップも聞くようになって。ドラマを見ていて、韓国語を読めるようになりたいなって思って高校の時、自分で勉強しました。そしたら、なんだ簡単じゃん!って気づいて。ドラマ見ている時も、セリフが聞き取れるようになりました。

 韓国ドラマ→韓国語→多言語読み聞かせ→日本語の継承語教育。興味関心の更新。何が何のきっかけになるかはその時はわからない。でも、何かに繋がっていく。

はるか:本当は大学在学中に韓国に留学する予定だったんですけど、コロナでオンラインになっちゃいました。あと1年入学が遅かったら行けていたのに。
ママ:あらー、それは残念!!

 このような話を聞くと、本当に悔しいとママは思う。自分ではどうしようもない巡り合わせというものがある。あと1年早ければ、あと1年遅ければ。でも、どんなに優秀な人だって、世の中の状況をコントロールすることはできない。

ママ:はるかさんは、卒論書いたあと、どうするの?
はるか:まずは大学院に行って日本語教育を勉強したいと思います。
ママ:日本語教師になるの?
はるか:日本語教育もしたいんですけど、それだけじゃなくて、海外にルーツを持つ子どもたちのサポートを常にしていきたいんです。
ママ:日本語教育だけにこだわる必要ないものね。そうよね、それはせせこましいわよね。じゃあ、どんな大人になりたい?
はるか:母のような大人になりたいです。
ママ:えっ!!

 思わず驚きの声をあげてしまうママ。自分の母のような大人になりたいってセリフ、今までに聞いたことあるだろうか。身近の人の中ではないような…。

ママ:はるかさんのお母さんってどんな方なの?
はるか:臨床検査技師をしてたんですけど、40歳すぎて大学院に入学したんです。それで、修士、博士と学位をとって、今、大学の教員をしています。
ママ:あら〜、すごいわね。
はるか:はい、かっこいいと思います。

 自分の親を「かっこいい」と言えるって、なんとも眩しい。言われてみたいよ、私も子どもに!とママは思う。
 はるかさんが熊よけ鈴を鳴らして店を出て行った後、「私はなんでスナックをやっているんだっけ」 と、ママはひとりごちた。何かきっかけがあったはず。今ここでしていることは自分が選び取ったことで、その裏に意思がある。冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出し、プシュッと開けた瞬間、ママは思う。誰かにかっこいいと言われなくても、自分が選んだことは自分でかっこいいと思っていればいいのであ〜る。今夜もビールがうまい!

スナックまきこの「大人へのエレベーター」。次にスナックを訪れる若者は誰だろう。その若者はどのような大人へとつながるエレベーターを選ぶのだろう。乞うご期待!

(了)


文章:東のマキコママ
イラスト:西のマキコママ

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