​トガルための100作品

​オンラインマガジン「トガル」では、特集企画として「トガルための100作品」を企画しました。「トガルための100作品」とは、読者の皆さまの心に残るトガった作品を広く募集し、そのなかから100作品を選び出し、紹介しようという企画です。2021年8月にアンケートを始めたところ、すでにたくさんの方々から回答をいただきました。ご回答を下さった皆さん、ありがとうございます。また、アンケートは継続していますので、皆さんもぜひ回答していただければ嬉しいです。

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#2  尖りまくりのヒーロー、ブラック・ジャック

 

福村真紀子

 

かろうじて「キャンディ・キャンディ」にハマった時期がちょっとありましたが、子どもの頃からナヨナヨした恋愛を描く少女漫画より、ブレない一つのテーマに取り組むヒーローが登場する少年漫画に惹かれていました。「あしたのジョー」「おれは鉄平」「釣りキチ三平」のヒーローもシャキーンと尖っていますが、なんといっても「ブラック・ジャック」(以下、BJ)の尖り方は最高です。BJの概要はWikipediaをご覧いただければこと足りるので、ここではジェンダーイシュー、多言語多文化共生、言語文化教育に関心を寄せる私から見た尖りまくりのBJの魅力をお伝えします。

 

魅力1:マザコン

 「マザコン」にマイナスイメージを持つのなら「母親想い」に置き換えてください。無責任な不発弾処理により爆発の被害にあった少年BJと母。父は愛人とともに海外に。両手足をなくし言葉も発せない母と目で会話をするBJ。母は亡くなり、BJはその後ずっと母を慕い続け、憎む相手への復讐も果たします。かわいい息子を残して死んでいった母のことを思うと、同じく息子を持つ私の胸はズドーンと重くなるのですが、死後もBJから慕われ愛され続ける彼の母は幸せだなあと思うのです。生死を超えた永遠の愛と言いましょうか。

 

魅力2 : マイノリティ

 無免許の医者なのに手術の依頼人にべらぼうな治療費を請求するBJは社会の嫌われ者です。奇形嚢腫からBJの手によってつくられたピノコだけは彼にゾッコンですが、たいがいの人は彼に近寄りません。ですが、BJは非常に情が深く、ピノコの命は懸命に守り、貧しい人からは手術料は取りません。爆発事故に遭った時は友達のタカシから皮膚移植を受けました。タカシの皮膚は黒いので、BJの顔面はツートンカラーに。皮膚の色を変える手術のチャンスはいくらでもあるのに、彼はタカシからもらった皮膚を後生大事にするのです。BJは社会的マイノリティにこそ命の価値を見出し、自らもマイノリティとして生きているのではないかと思います。

 

魅力3:人間臭いかわいさ

 過酷な手術後、大いびきをかきながらソファで寝入るBJ。スーパー医師も疲れてスキを見せるんだなと、なんだかほっとします。また、見かけは子どもだけれど中身は18歳のピノコがBJの妻であると主張してあからさまに愛情を表現してくる時、BJは彼女を子ども扱いしつつ、彼女の愛情を照れながら受け入れます。さらに、「如月恵」「ブラック・クイーン」との恋愛が成就できないストーリーにはグッと惹かれます。ナヨナヨ恋愛ではなく、キッパリさっぱり身を引くBJ。非常に人間臭いかわいさを見せてくれるのです。

 

 ここまで私のヒーロー、BJについて3つの魅力をお伝えしましたが、どこがジェンダーイシュー、多言語多文化共生、言語文化教育と関係あるの? という声が聞こえます。その疑問にお答えするなら、女性をリスペクトしていること、社会的マイノリティに当事者として寄り添うこと、絶妙なタイミングでスキを見せて読者に人間性をアプローチするコミュニケーション力を持っていることがポイントだと言えます。また、BJの周辺の登場人物もとてもユニークで魅力的です。例えば、命の恩人であり師匠でもある本間丈太郎。私は超渋キャラの彼の大ファンでもあります。本間先生が手術中のBJに投げかけたセリフを以下に紹介します。

 

 これだけは きみも キモにめいじておきたまえ

 医者は 人をなおすんじゃない

 人をなおす手伝いをするだけだ

 なおすのは・・・本人なんだ

 本人の気力なんだぞ!

 

 「医者」を「日本語教師」に、「人をなおす」を「学習者にことばを習得させる」に置き換えてみてください。医者なのに人をなおすのではないという理念、尖りが伝わってきます。BJが手術を施した人に全く恩着せがましくなくむしろ冷淡なのは、この理念によるものなのだな、と納得できます。学習者を何も知らない、何もできない存在と考えることほどカッコ悪い思い上がりはないですね。